ドリームの中ではさ、そりゃあもう、

あっちこっち、なんでこんなに上手くいくんだよ的な突っ込みも余所に、

すんっげえ完璧な可愛らしい乙女達が、

キャラの誰もに好かれつつ、

現実世界なんか忘れられるのだろうけれども。

けれども。



「あたしはそうじゃねえんだよぉぉぉぉぉ!!!」



なんて、この小説の主人公の寂しい叫びが、

森の、というより、ボンゴレヴァリアーアジト敷地内の、広大な庭に木霊していた。












ごくごく普通の大学生。

ちょっと、ほんのちょっと、

ちっちゃいものとか、ふにふにしたものとか、可愛い
とかが好きな、

普通の、何処にでもいる、ちょっと真面目くさった大学生。



森の中でうちひしがれている主人公は置いておいて、

朝の回想を始めるとしよう。

彼女が運悪く、相当悪く、

このようなところに来てしまったくだらないいきさつを。





「おはよ。

「おはよ」

「今日も早いなあ」

「いつも通りですけど?」

「真似できませんけど?」

「あんたにゃ無理だな」

「ひどっ!!」



クーラーの効いた。

いや、効き過ぎた朝の教室。

誰だよ18度なんかに設定した糞はっっっ!!!

毎朝きっかり6時に起きて、余裕を持った用意を済ませた後は、

ゆらりゆらりと2時間電車に揺られつつ、

殆どの人が勉強なんて糞食らえと思ってる莫迦大学に通う毎日。



「で、いつも通り予習ですか?」

「ま。ね」

「偉すぎ」

「普通」

「普通じゃないから」



なんでこんな学校に来たんよってゆう、聞き飽きた質問はスルーして、

広げられた教科書へと目を移す。

イタリア語の教科書へと。

決して、決して邪な心があったわけではない。

とは言い切れない。

マーモンと、そう、あの有名某ジャンプ漫画に出てくる、

ちっさくてふにふにしてて、

の直球ど真ん中ストレートな子供と喋ってみたいからとかではない。



「何処いくの?」

「トイレ」



そうやっていつも通りに、先生が来る前にトイレに行って、

5分前にはきっかり着席して、

昨日やった小テストもどうせ、満点だろうなと思いながら受け取る筈だった。

筈だったのに。



「ここは、何処ですか」



振り向けばドアなんか、欠片も存在していませんでしたというように、

木々が鬱蒼と生い茂る。

目の前には洋館みたいなものが見え隠れしていて、

ほんでもってそれは、記憶が正しければ、アニメで見たものと酷似しているわけだ。



『あんた、リボーンの世界にトリップさせたから、精々楽しんで』



なんて言葉が頭に響いて、冒頭に戻る。

ここがヴァリアーのアジトだと言うことは気付いていない。

いや、アニメの記憶を今し方抹消したところだ。

命の危険にさらされるなんて考えはこれっぽっちもない。



「う゛ぉぉい。侵入者かあ?」



後ろを振り向いて後悔した。

人生最大の後悔をした。



見てない。



綺麗なストレートの銀髪の男なんて。

黒のコートについてる紋章があれだったなんて。

右手に剣が付いてたことなんて。

その後ろに立つ金髪なんて。

ティアラが付いてるなんて。

独特なナイフ掲げてるなんて。



「誰そいつ」

「立てぇ。とりあえずボスに会って貰うぞぉ」

「今ここで殺っちゃおうぜ。王子超ヒマしてたとこだしい」

「殺るなら吐かせること吐かせてからだ」



そんなことを言われて、はいそうですか。

なんて言えるはずもなく。

なんで日本語で喋ってんだよ!という突っ込みも出来ず。



「王道すぎるわぁぁぁぁぁぁ!!!!」



またもやの叫びが木霊して、

腕を掴んだスクアーロがびくりと震え、

鳥が何羽か飛び立った。