桜の木の下での、お昼寝、とか。

ソファでの、研究、とか。

とにもかくにも、あたしの膝の上が、

マーモンの定位置だった筈なのに・・・・。




、遅いよ」

「あの、久し振りの下駄で走りにくいのですが」




どんっ。

間近で、花火が上がる。




「む。間に合わなかったじゃないか」

「あっあたしの所為ですか!」

「9割はね」

「1割は?」

「ベルの所為だよ。邪魔して」




引かれた手。

見上げる瞳。

来た当初と同じ所なんて、何一つ無い。

後で術をあげようとか言うその口から、

自分の名前がこぼれ落ちる度にドキドキしっぱなしだ。






「ふあい?」

「似合ってるよ。浴衣」




ぼふんっと、一気に茹で蛸になった顔。

林檎なんて可愛いものではありゃしない。

来慣れた彼の部屋について、窓辺に座れば、

いきなり出て来た、彼の商売道具。




「・・・・・・・マーモン」

「何?」

「その、トイレットペーパーは何に?」

「蝉が五月蠅いからね」

「蝉は五月蠅いもんだから!それが仕事だから!!」

「イライラするし」

「レモネードで落ち着いてください!!」




ちっちゃな頃と変わらないのは、

レモネードで機嫌が取れることくらいだ。




「はい」

「はい?」

、お祭り事好きだろ?」

「いや、はい。まあ。好きです・・・けども」




溜息をつかずにはいられない。

犬猫宜しく、抱き上げられて、

今や、彼の膝の上が、私の定位置。

あの、ちっちゃな癒し系赤ん坊は何処へ!!




「・・・・・・・・・・のに」

「聞こえない」

「べっ別に何でもないです!」

、分かり易すぎる顔、どうにかしたら?」

「ひどっ!」

「で、何?」

「だから何にも・・」

「無理矢理吐かせても良いけど?」

「いいいいい言います言います!!」




嗚呼、脅しも上手くなってしまって・・・。

それが、彼女相手限定に、

3割り増しで黒くなっていることには気付かない。




「・・・・・・ちっちゃい・・が」

「?」

「ちっちゃいときの方が、良かったな・・・なんて」

「へえ」

「嘘です嘘です!御免なさい!!」




彼女の考えていることなどお見通しだ。

会った瞬間、自分を天使などと称して、

仕舞いには膝の上でくつろぐ自分がいたなんて。

今のサイズでは、抱っこなんて以ての外。

膝の上に乗せることすら出来ない。






「は・・っ!」

「ボクは戻る気ないよ。じゃないと、キスも出来ない」

「マっマっ・・・!!」

が我が儘なのは百も承知」

「確かに我が儘で、人一倍我の強い一般人ですけども・・・・」

「そんなが好きなんだよ」




耳元に寄せられた唇。

上がってる花火なんか聞こえない。

蝉の声も聞こえない。

ただ、君の声だけ。




「私も・・・です」

「当たり前でしょ」




唇が、近づく。

音が、遠退く。