「今度会うのはホグワーツ特急?」

「そうだね。一番後ろの車両にいることにしよう」

「判ったわ。時間があれば会いに行くから」

「待ってるよ」

「それじゃ」

「気をつけて」

がいるから大丈夫よ」




憎たらしいほどに広がった、雲ひとつない青空に目を細め、

は、家の戸口に立っている男性に別れを告げ、姿くらましを使った。

勿論ここはマグル界。

魔法は一定を超えなければ使用は許可されないのだが・・・・。

ばれなければ問題でない。




「ジェームズの息子によろしく。




の向う先は勿論ハリー。

そもそも電話を持っていない自分が、

あの腹黒魔人に呪い殺されない唯一の方法は、

もう、直接会いに行く事くらいだろうから。










その頃ハリーは、が向っている事など知る由もなく、

いつもどおりに味気ない誕生日を過ごそうとしていた。

だが、その夜に3通もの手紙が来たことで、ハリーの機嫌は上々。

馬鹿げたダドリーの会話や、ののしりの言葉さえ流せるほどだ。

ただ、幾ら機嫌のよかったハリーでも、この単語だけは聞き逃さなかった。




『マージ』




最悪なババ・・おばさんの名前である。

今からここに来るというではないか。

それからの時間は飛ぶように過ぎて行った。

今も作り笑いを浮かべながら、必死に叫びたい衝動を押さえ込んでいる。

そんな時だった、玄関のチャイムが鳴ったのは。




「こんな時に誰だい全く」

「ダドリーちゃん、出てくれるかしら?」

「どんな客でも、この可愛さには惚れ惚れだ」




全く、ドコまで親ばかなのか。

ここまで来るともう、病気である。

ダドリーはめんどくさそうに玄関まで行くと、これまた至極めんどくさそうに扉を開けた。




「だ・・・・・れ・・・」

「こんにちわ。あそこの空き家に引っ越して来た者ですけれど」

「えっと・・・あ」

「お父様かお母様いらっしゃいます?」




最初の一声で判る。

夢のような声。

透き通るそれは、一瞬にしてハリーの脳に浸透していった。

玄関に走って行きたい衝動を抑え、なんとか踏みとどまる。

ダドリーのどう聞いても適切とはいえない対処に、ペチュニアが動いた。




「どちら様かしら?」

「初めまして。と申します。こっちは兄の

「俺たちあそこに引っ越してきたので、挨拶に」

「まあまあそれは、わざわざどうも」

「「これからよろしくお願いします」」

「こちらこそ。お父様のお仕事は何でらっしゃるのかしらね」

「キングストン大学の教授ですわ」

「あらあらまあまあ、それはそれは」




に父親はいないが、

ハリーに会う・・・いや、自分の来学期の生活のためならそれくらいの嘘なんて事ない。

それ位の地位の者なら、こいつも受け入れるだろうと踏んだギリギリのラインだ。




「ママ!この人たちに上がってもらって!!」

「でもダドリーちゃん、今はマージーおば様が来てらっしゃるのよ」

「関係ないよ!あがって!!」

「少し待っててくださいませね」

「はい」




にっこりと極上の笑みを浮かべながら、心の奥では悪態をつく。

さっさとあげろ糞婆と。

だが、ここでぼろを出せば、彼らの怒りがハリーに向く。

それだけは避けなければならない。

逆手に取られれば一巻の終わりだ。

双子だけで手を焼いているというのに。

だんだんと笑顔の引きつってきたの背中をつねり、

ペチュニアが戻ってくるのを待った。




「ぼっぼぼぼく、ダドリー・ダーズリーよっよおろしく」

「よろしく」




顔を真っ赤にして必死に挨拶するダドリーを受け流し、

廊下の向こうから走ってくるペチュニアに、いっそう綺麗な笑顔を浮かべた。




「いま、お客様が来ているのだけれど、それでも良ければお茶になさいます?」

「それは悪いですよ。なあ

「そうね兄さん。またの機会に」

「イヤだ!いいんだよ!!!ほらあがって」

「ダドリーもこう言っている事ですし、どうぞ上がって下さいな」




顔を見合わせ、向こうから見れば困ったような、

2人だけに通じるしてやったりという笑みを浮かべて、

それじゃあとはにかみ、家の中へと入った。




「どうぞ」

「すみません、こんな時にお邪魔してしまって」

「いやいや、こちらにおかけになって下さい。聞きましたよ。お父様が素晴らしいご職業で」

「有り難う御座います。俺達の自慢の父です」




部屋に入ると、勿論ハリーと目が合う。

ここは話をあわせなさいと、目で訴えて、バーノンの応答を始めた。

一通りの紹介を終え、の視線がハリーに移った。




「こちらは?」

「こいつは甥ですよ」

「御両親が交通事故でなくなって、引き取ったんですの」

「それはすみません・・・・」

「お名前をお聞きしても?」

「ハリー・ポッターです」

「よろしく。また私の家にも遊びにいらして下さいね」

「特性のハーブティーをご馳走します」

「伺わせて頂きます」

「それじゃあ、お暇しようか

「そうね。少し長居しすぎたかもしれないわ」

「明日も来る?」

「勿論よダドリー」

「それじゃあ、玄関までお送りしますわ」

「ポッター!お前もお見送りしろ」

「判りました」




は実際ひやひやしていた。

渡したかったものを、何時渡そうかと考えていたのだ。

渡せなければ、今日来た意味がない。

それを考えれば、バーノンの申し出はとてつもなく有難いもの。

廊下を歩きながら、ポケットに手を忍ばせ、小さな小さな包み紙を握り締めた。




「それじゃあ、また明日」

「ダドリー今日はありがとう」

「いや・・・別に・・・・」

「貴方も有り難う」




そう言って、2人の手を握る。

ハリーと握手する時に、そっと小包を忍び込ませて。

一通り握手し終えると、は、

買っておいた、向かい側の家へと帰って行った。