そして、クリスマス・イヴが来た。
明日が満月ということもあって、
隣で紅茶を飲んでいるルーピンの体調はすこぶる良くない。
の作ったケーキを頬張る元気はあるようだが・・・・。
「明日の夜、また叫びの屋敷に行くわね」
「ありがとう。でも・・・」
「大丈夫とは言わせないわよ?」
「・・・」
「覚えてる?3人がアニメーガスになるんだって宣言した時の貴方の反応」
「感極まって涙したね」
「独りに慣れる人なんていないの」
ストレートの品のよい紅茶を口にして、
もう一度ルーピンを見据える。
空気の変化に気づいたのか、
半分くらいになった紅茶に入れようとしていた角砂糖を、
途中でシュガーポットに戻した。
「どうかしたのかい?」
「シリウスのことよ」
途端、ルーピンの顔が歪む。
信じたかった。
今も信じていたい。
「私が曖昧な事言うのが嫌いって知ってる?」
「知ってるよ」
「だから、自分で見て欲しいの」
「何を?」
「忍びの地図よ。色々経由して、今はハリーが持ってる」
「それに何が映るんだい?」
「自分で確かめてちょうだい」
「教えてくれないんだね」
「私が嘘を吐いてるかもしれないでしょう」
「有り得ないな」
「有得ない事が起こったから、リリーとジェームズは死んだ。忘れたの?」
その言葉にうっと詰まる。
真剣だった顔を緩めたは、
セブルスに取り上げられる前にね?と念を押して、
メリークリスマスと言うと、扉を閉めた。
自室に作っておいた、至って普通の甘さのガトーショコラを持って、
今度は地下へと歩を進める。
すでに就寝時間は過ぎているが、窓から射す月明かりで足元には困らない。
ジメジメとした廊下や階段を通り過ぎて、1つの扉の前に立った。
ノックするかしないかの内に、開いた扉。
その向こうには、不健康極まりない顔色のスネイプが立っていた。
「遅い」
「待っててくれたの?ゴメンなさいね」
「入れ」
するりと体を滑り込ませ、ぱたんっと扉を閉じる。
部屋の中は、やはりというか薬品と薬草の匂いが充満していて、
クリスマスムードの欠片もない。
「セブはもう少し日光に当たらないと」
「意味がわからん」
「その内コケが生えるわよ?」
「余計なお世話だっ!!」
「・・・・・・・で、イヴの夜に呼び出して何のつもり?」
梟が持ってきた呼び出しの手紙をひらつかせる。
ことりとガトーショコラを机に置けば、
魔法でコーヒーを出して差し出してくれた。
勝手にケーキを切り分けていた包丁が止まり、1人分をお皿に。
「・・・・・しらばっくれるな」
「質問しているのはこっちよ」
「あのブラックを校内に入れたのはお前だろう」
「どうしてそう思うの?」
「お前しかおらん。ルーピンの奴かとも思ったがな」
「だとしたらどうする?」
「あいつの居場所を言え」
優雅に口にしていたコーヒーカップを机に置き、
じっとスネイプを見つめる。
皿に置かれたガトーショコラがパタンと倒れた。
「知っていたとしても言わないわ」
「」
「こんな時だけ名前呼んだってダメ」
「・・・っ」
「貴方の悪いところは、全てに方程式を作って、
それを皆に押し付けられると思っているところよ。
薬学じゃないんだから、そんな簡単に事が運ぶと想わない方が身のためね」
杖を突きつけて凄んでみても、の態度は変わらないのだろう。
そんな確信がスネイプにはあって、
懐に滑り込ませた腕も、立ち上がった身体も、
何の行動を起こすこともなく、元あった位置へと戻った。
「お前は、何を知ってる・・・」
「ヴォルデモート忠誠を誓った者の全て」
その視線の先には、今もその形を残すあの頃の傷跡。
そしてそれは、の左腕にも刻まれている。
「そろそろ戻らなくちゃ。が心配するから」
「・・・・・・そうか」
「つかず離れず。貴方のそうゆうところは好きよ?」
少し赤面したスネイプにふっと笑いかけて、地下室の扉を閉めた。
もう少しで満ち足りる月。
自室への帰路を辿りながら、は考えていた。
向こう側に気づかれず、ピーターを始末する方法を。
ピーターに、自分があのだとはばれていないらしいが・・・・。
「」
「気配を消して近づかないで?気分が悪いから」
「気をつける。遅かったな」
「で・・・・?」
「何が?」
「ポケットに入れてる紙よ」
人の姿になり、静かに横に並んでいたが、
ため息を吐いて、手紙らしきものを渡した。
「嫌らしいディメンターの臭いがす・・」
ぱさりと開いて、ピタリと立ち止まった。
時が止まってしまったように動かない。
文を追う眼が、落ちそうなほどに見開かれている。
「あいつらは知ってたんだよ」
今の両親であり、伴侶だった時代に信頼を寄せてくれていた部下2人。
記憶の蓄積だとか、自分の人生については全く話していなかった。
両親としての、部下としての言の葉が、2人の死を意味するものと共に。
「まさか・・・・・」
「言ってねぇよ。最期までな」
「真実薬は?」
「・・・・飲む前に自分たちで」
「莫迦よ」
「大莫迦だな」
涙が頬を伝っては床に落ちてゆく。
敵を騙すには味方を裏切る覚悟を。
忠誠を誓ったものにも壁を隔てて接せよ。
そう教えたのは、自分だった気がする。
ころりと封筒のの中から転がり出たのは、ヴォルデモートから伴侶に送られた指輪。
何かの役に立つかもしれない。
2人なりの気遣いなのだろう。
杖の一振りでその形状をピアスに変えて、自分の耳に光らせた。