響いたのはロンの声。
は、吹っ飛んだシリウスに駆け寄った。
「ほら、言ったでしょう?」
「油断してただけだ」
「だったら貴方はいつも油断しっぱなしね。どこか打ったんじゃない?」
「いや・・・」
「エクスペリアームス」
別の声で、ロンの杖が吹っ飛ぶ。
あまりにも聞き馴染んだその声に後ろを振り向けば、
鳶色の髪と、ぼろぼろのローブ。
「リーマス・・・・ややこしくなる事分かって来たの?」
「心外だな。ピーターの存在を教えたのに」
「それを知り得る材料を教えたのは、私だったと記憶してるけど?」
「そうだったね」
蚊帳の外に押しやられるのだけは嫌だった。
3人にしか分からない時代があったにしても、
は今、自分達と同じ時を過ごしているのだから。
醜い独占欲だなと、ハリーは自分を嘲笑しながら、
いまだシリウス・ブラックの傍から離れないに問うた。
「ねぇ、そろそろ話して」
「・・・いいわ。ハリーには知る権利があるわね」
「おい!近くにあいつがいるって言うのに、まだ待てって言うのかよ!!」
「黙ってくれる?何処の何方さんの所為で、ここまでややこしくなったと思ってるの?」
「すっすまん」
「で、そう。話だったわね。秘密の守人の話は聞いたかしら?」
「ブラックがそれで、父さんと母さんを裏切ったって言うのがその話なら」
「違う!!オレは・・」
「シリウス?」
「スミマセンデシタ」
彼の威厳が半減しているのは、
やはりがいる所為だと、3人は確信せざるを得なかった。
の下でもがき続けているネズミを一瞥して、話を続ける。
本当に2人を裏切ったのは誰かということ、
そいつが、ヴォルデモートの配下に下ってしまっていたことを。
「は全部知ってたの?」
「ロナルド・ウィーズリーの鼠がそうだと気づいたのは最近」
「そっか・・・・」
「・・・もういいだろう」
「それを決めるのは、私じゃなくてハリーとウィーズリーよ」
色んな話を聞かされて、混乱状態にあるだろう3人を見る。
悠々としているリーマスと違い、いらつきを隠せないシリウス。
やはりあの時を思い出せる存在がいるのは嬉しいことだ。
沈黙の中、煩い位に足音を鳴らして階段を駆け上がってくる誰か。
乱暴に開かれた扉の蝶番が外れた。
「「どうしてここに・・・・」」
と黒いローブの声が重なる。
「セブルス、話を・・」
「ルーピン、やはりお前か」
「違う。君は誤解してるんだ」
「そんなもの・・」
「止めなさい!!」
ハリーの杖から飛び出した武装解除の呪文が、スネイプを庇ったに直撃する。
勢い良く吹っ飛んで、崩れそうな机に背中を打ちつけた。
は、下にいるネズミの存在を忘れ、
あろう事か人型になってまで、駆け寄ってしまった。
「!!」
「・・・・なっ!!莫迦!あいつが!!」
「どういうことだ」
「後で説明するわ!」
「!そっちに!!」
ちょこまかと逃げていくネズミに杖を向け、呪文を唱える
ネズミのすばしっこさより、のコントロールのほうが上だったらしい。
数秒とたたず、小さなネズミが小太りの男へと変わって行った。
「やあ、ピーター」
「シッシリウス・・・・・リーマス」
「ぺディグリューが何故ここにいる。死んだのではなかったのか」
「誤解だってリーマスが言っただろうが。聞いてなかったのかよスニベル・・・ってぇ!!」
「これ以上無駄口を利いたら、セブルスの変わりに、私が貴方を地獄に送ってやるわよ」
「ごっごめんなさい」
「そっそんな女の言うことなんか信じるのかい!?」
「ピーター。残念ながら、君よりも彼女のほうが、ボク等が信頼を寄せるに値する」
3人は、直感的に話に入ってはいけないと思った。
例えそれが、自分の父と母の死に関わることだろうが、
自分がずっと一緒にいたネズミに関わることだろうが。
「きっと、その女も、例のあの人の・・」
「ヴォルデモートの何?」
「ひっ・・・・!」
「をあの女呼ばわりするのをその辺でやめろ」
「?あの?」
視線が交差する。
知られてはいけない。
いや、知られたほうがいいのか?
自分を欲しがりはしないだろうか。
もしかしたらもう、知っているのかもしれない。
「嘘だ!!あのは死んだ!2人を殺して、そう。は向こう側の」
「黙れ」
「?」
「そうだよ。お前の察するとおりだ」
「そんな・・・・まさか」
「オーベ・レ・ディ・アウト」
の声に、一瞬ふらりとなったピーター。
事はすんだと、その場から離れる。
「何をしたんだ?」
「学生時代の俺たちの記憶を消したんだよ。後々厄介だからな」
「そんな呪文は・・」
「俺が創った」
隅の方でなされる会話など聞こえている筈もなく、
正気(元々正気ではなかったが)を取り戻したピーターは、
視線をハリーへと固定させた。
「ハッハリー、ああ。ハリー。助けて。ジェームズならきっと・・」
「ハリーに触るな!!」
「君たちはあの人の恐ろしさを知らないんだ!!やらなければ、僕が・・」
「だったらお前が死ねばよかっただろう!!!!」
「シリウス・・」
「親友を売るくらいなら、自分が死ねばよかったんだ!!!」
熱くなっている友を片手で制し、
訳の分からないといった表情をしている方を振り向き、
眼だけで、今は何も聞くなと訴える。
それが通じたようで、今まで上げていた杖腕を下ろした。
「もういいでしょう」
「そうだな。もういい」
「裏切り者には死を」
「さよならだ」
「やっやめ・・」
「待って!!!」
「ハリー?」
「ボク、ボク・・・・父さんの友達に殺人鬼になんてなって欲しくない」
その言葉に、さすがジェームズの息子だ。
と思った者が、この部屋に何人いただろう。
そこから、ディメンターに突き出そうと言ったのも、勿論ハリー。
秘密の抜け道を通り、静かに叫びの屋敷を後にした。
の説得に甘んじたスネイプも、
最後尾でおとなしくしている。
暴れ柳から這い出して、全員の眼に映ったのは、
眼を閉じたくなるくらい鮮やかに輝いた、
満月。