がハリーの誕生日プレゼントに選んだのは、
マグル界で使用されている盗聴器一式。
一体どこから取り寄せたのかと思われるかもしれないが、
その辺は魔法という事にしておこう。
これで、何とかやり過ごす事ができたのだ。
毎夜聞けるの声と、時々見れるその笑顔。
昼間はクソムカつくおばさんの相手をしながら、怒りを醒ます夜。
そしてとうとう最終日。
よくここまで持ったものだと、ですら感嘆していた。
『ハリー・ポッター、聞こえてる?』
「いつもどおりハッキリしてるよ」
『今日で最後なんでしょう?何もしなかったなんて貴方らしくないわね』
「そりゃあ脅すくらいはしたけどね?
去年みたく、ホグワーツ退学の危機にさらされるのを避けただけで」
『いい心がけだわ。こちらでの魔法は、いやに向こうに響くからね』
「それはそうと?」
『なあに?まだ私にたかる気?』
「違うよ!!そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃないかな?」
来てくれたときは本当に嬉しかった。
例の一件で仲が縮まったとはいえ、
まだ親友と呼べる間柄では決してなかったわけだし。
すこし脅しも使ってみたが、不安は拭い去れていなかったから。
『名前で呼ぶ事に何の意味があるの?』
「なんとなく、親しい感じがするから・・・?」
『(親しい・・・・か)』
「?」
『おやすみハリー。良いユメを』
かちゃっと切れた盗聴器。
呼ばれた名前に頬が紅潮するのがわかる。
そして、意気揚々と階段を下りて行ったのだが、
その夜、ハリーは怒りのあまりマージを膨らませ、逃走。
一体誰が予想しただろう。
こんな事を。
勿論、とて同じであった。
あの忌々しい家を出て数分後、ハリーはネビルとして夜の騎士バスに乗っていた。
通り過ぎて行くロンドンの町並みや、こちらに目を向けない人々を眺めながら。
何も思考することなく、ボーっとしていた時だった。
「アーン、またプリベット通りに逆戻りだ」
「おいおい、今夜はこれで3度目だぜ」
「しょうがねぇや。さっさと戻れ」
またあそこの家を見る羽目になるのか。
あまり深く考えなかった。
このバスを呼べるのが魔法使いだけで、
あの辺りにいる魔法使いは、自分を除けばあの2人だけだという事を。
お決まりのバーンッという音がして、バスが止まる。
「ココにハリー・ポッターが乗ってきませんでした?」
「ああ?アリー・ポッター様がこんなバス使うわけないだろうが」
「そうかしら・・・・・まあいいわ。有り難う御座います」
落ちてくる瞼を受け入れようとしていたハリーは飛び起き、
入り口に向って全力疾走しながら、愛しい人の名前を呼んだ。
「!!」
「ハリっ・・!!」
「ボク今、ネビル・ロングボトムって名乗ってるんだ」
「は?」
「ネビルじゃない。彼方知らない?あのお莫迦なハリーがどこにいるか」
「おい」
引きつった笑顔。
あれほど目立つ行動は慎めといったでしょうがと、
笑っていない眼が語っている。
「いっ今から帰るトコなんだ。もしかしたら向こうにいるかも。一緒に来る?」
「ええ。あ、乗っても構いません?」
「トランクは?」
「こっちにある」
演技で、とりあえずその場を凌ぎ、
とは、夜の騎士バスの敷居をまたいだ。
1人1人と降りていく魔女や魔法使い達を無視しながら、3人は円になっていた。
「で、内容を纏めると・・・・何か問題あったか?」
「未成年者で魔法使うのは法律違反よ」
「俺らもやってることだぜ?」
「あのね、ばれないように出来る実力があるならいいわ。
ハリ・・ネビルはまだホグワーツに入って2年。そんな事出来るわけがないでしょ?」
「ああ・・・・・」
「そんなこと、判ってた筈よね?」
「ボク、退学になるかな?」
「最悪そうなるかもしれないから、覚悟しておきなさい」
「だよね」
「それよりも見たかったぜ、あのブルドックそっくりのばばあが風船になって飛んでくとこ」
「どうやったら、あんなふうに贅肉がたれるのかしら」
「其れを言うなら、アノ家族は皆メタボだよ」
「まあ、そんな話はおいといてよ。とりあえずダイアゴン横丁まで行きましょ」
「どうして?」
「そこからだとダンブルドアに連絡が取れるかもしれないし、
情報収集にはもってこいの場所でしょう?」
「そんなことにも気付けなかったのか?」
溜息をついてばかりのバスの中。
どうしたものか、幸先悪い。
これからの1年。
なにも起こらず・・・は、無理だろうが、
平々凡々な学生生活を祈らずには居られない3人であった。