「それじゃあ、さよなら」
「感謝するわ」
「助かったぜ」
それぞれの言葉を残して夜の騎士バスから降りた3人。
いざ漏れ鍋の中へ入っていこうとしたその行く手は、
ハリーの肩に手を置いた、おっさん。
基、魔法大臣のコーネリウス・ファッジに阻まれてしまった。
「ハリー!やっと見つけた・・・・・こちらは?」
「ボクの友達です。ホグワーツの・・」
「・といいます」
「だ」
にっこりと笑って、返せば、
の名前が出た瞬間、ファッジの顔が一瞬にして凍る。
それを至極楽しそうに眺める2人は、なんというか良い趣味だ。
「あの・か!?あ、いやいや・・・・何もそんな珍しい名前ではない」
「私の名前が何か?」
「いやいや。こっちの話だ」
「それはそれはとても不躾な返答を有難うございます」
自分の名前で驚愕されて、
尚且つ真っ青な顔で後ずさりされたら、嫌味の1つ2つ言ってやりたくなるのは当然。
まあ、その理由は大方、
闇の陣営で名を馳せた、前の自分だろうが・・・・。
ぴしりと青筋が立つ魔法大臣を、
それはもう素晴らしい笑顔で見返す主に、
は人知れず溜息をついたとか・・・。
「不躾・・・・?」
「こっちの話しですわ。御気になさらず?」
「っ!!それで?何故君達がココに?家はどうしたね?」
「そんなの俺らの勝手だろ?」
「休暇中のことまで魔法大臣に縛られる気は毛頭ないですけれど」
どうやら心底、魔法大臣が嫌いらしい。
流石のハリーもひやひやしながら事の成り行きを見つめている。
当の魔法大臣は、とを無視する事の決めたらしく、
人当たりの良い笑顔を浮かべて、ハリーを漏れ鍋の中へと促した。
それこそ不躾極まりない行為だと、彼は気づいているのだろうか・・・・。
「・・・・・うっとおしい」
「まったくだな」
2人はまるで、これ以上口を開くのが億劫だとでも言うように、
盛大な溜息をいくつか吐いて、
ハリーの後に続いて漏れ鍋の中へと歩を進めた。
「どうだったんだ?」
「無罪放免。おかしいよね」
「喜びなさいよ。それともあのマグルのところへ戻りたいの?」
「いや、そうじゃないけど・・・」
漏れ鍋について早数日。
横丁を並んで歩きながら、
部屋に通され、少しの間ファッジとした話しを語る。
まあ、確かに喜ばしい事態なのだが、
いかんせん、納得がいかない。
「あ・・・・」
「どうしたの?」
「シリウス・ブラックだな」
「誰?」
そこら中に貼ってあるポスターに目をやった2人。
ハリーの返答に、はい?と、まるで天然記念物でも見つけたような瞳を返した。
「脱獄犯よ。知らないの?」
「新聞なんて、見れなかったから・・・・」
「まあ、そういわれてみればそうね」
「アズカバンっつう、未だかつて脱獄犯の出てない、
最強の刑務所からの脱獄囚だから、めちゃくちゃ取り上げられてんだよ」
「なるほど」
「来年は手紙じゃなくて新聞を送ってあげるわ。
新学期になってこっちの常識の欠片も無いようじゃ、会話が成り立たないから」
「お願いするよ」
ハリーは気づかないのだろうか。
会話が成り立たないから。
会話を続けたいから。
少しずつでいい。
自分のために行動を起こしていければ。
は、とても嬉しそうに、を見て笑った。
だけれど、の中を占めていたのは、
ポスターで必死に飛び出そうとする彼。
今はドコに?
そんな思考にふけっている中聞こえた、
ハリーにとっては聞きなれた声。
「ハリー!・・・・・げっ」
「ちょっとロン!!!」
「いいわよ、ハーマイオニー・グレンジャー。
私のことを嫌いだと、初対面のときに言っていたでしょう?」
「帰るか」
「お友達水入らずでお話しして頂戴?」
そう言って、くるりと踵を返そうとしたは、
ふいに背後から、何か、何かとても、
そう、とてもいけないものがやってくるような気配を感じて、
咄嗟に二歩、横へとずれた。
どんがらがっしゃん。
凄まじい音と共に転がっている赤毛の2人組。
もうもうと立ち昇る煙。
どうやら、店の壁に追突したらしい。
ガラスでなかったのが不幸中の幸いか。
いや、幸い中の不幸か。
「姫!!どうして避けるんですか!!」
「どうして飛びついてくるの?」
「僕らの愛の表現方法だよ」
「謹んでお断りするわ」
「「遠慮なさらずに!」」
そう言って両手を広げる双子に溜息をついて、
ぽいっとポケットに入れていたとあるものを放った。
慌てて受け取った其れは・・・・。
「なんだこれ」
「マグル式の盗聴器一式よ。超小型トランシーバ付き。
ただし、私が発見魔法除けをかけた特別製だけれど」
「僕ももらったやつだ」
「?どうしてボク等に?」
「去年、医務室まで運んでもらったお礼してなかったからよ」
「性能は立証済みだぜ?」
「今学期も楽しませて頂戴ね?」
「「もちろん!!!!」」
それじゃあ、先に戻ってるわと、
今度こそ振り返って、2人並んで歩いていく。
双子は嬉々として掌に納まるサイズの盗聴器を見つめていた。
沢山見ればいい。
沢山楽しめばいい。
その中におさまる、沢山の人の幸せ以上に。
その夜、聞いてしまった、シリウス・ブラックが狙っているもの。
どうしてどうしてと、答えの帰ってこない問いを続けながら、
とりあえず2人が部屋に戻るまで息を潜め、
階下にたった1人の状態になって数十分。
ハリーはようやくふらふらと椅子に腰掛けた。
「盗み聞きは良くないわよ?」
「・・・・」
「聞きたいことがあるようね」