「去りなさい」




が一塊の生徒の前に立ちはだかり、

ルーピンとが吸魂鬼を車内に入れまいと杖を向けた。




「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない」

「これ以上言わすな。お前等の存在を消すぞ」




これだけ圧倒しても、吸魂鬼は無言で漂っている。

しかもどんどんこちらに集まってきている様子で。

元々言葉など通じるか通じないか判らないような連中だから。

仕方ないといえば仕方ない。




「聞き分けのない人は嫌いだわ」

?こいつ等は人ではないと思うけどね?」

「嗚呼、失礼。聞き分けのない魔法生物は嫌いだわ」

「おい!そんな事言い合っている暇があったら・・」




どさりっ




人の倒れる音。

流石に余裕綽々で会話していた2人も、

咄嗟に180度身体を旋回させていた。




「おい!ハリー・ポッター!!」

「どうしたのかしら・・・・」

「彼は、"死"を知っているからだろう」

「知っているね」

「さて、こいつらに長居されると、もう少し困った事態が起こるかもしれない」



キスをしてないにしろ、

魂の磨り減った状態になりかねないという事。

2人は杖をかざし、守護霊呪文を同時に唱えた。

さーっと扉口から弾いていく吸魂鬼。

戻ってきた気温や、正常に動き出した列車が、

彼らが戻ってこない事を約束してくれている。




「お前ら大丈夫か?」

「うっうん」

「ありがとう、先輩」

「なんともないわ。それより・・・は?」

「私は平気よ。ハリー、起きなさい」




揺すっても、叩いても、なかなか起きない。

幾度めかの呼びかけで、ハリーの瞳がゆっくり開いた。




?」

「貴方倒れたのよ」

「そう・・・・・・」

「地獄から帰ってきたような形相ね」

「女の人の・・・断末魔が聞こえた・・・・・」




それは、私の殺したリリーの叫び。




「自分で察しが付いているのなら、問題ないわね。
リー・・ルーピン先生、持っているチョコレートを半分くらいよこして下さい」

「半分もかい?」

「もう年なんですから、栄養の偏った食事はいただけませんわ?」




ほぼ命令かよ。

と、思いつつも、差し出されたチョコレートを頬張る。

口の中で解けていく甘さが、

少しずつ恐怖をも溶かして行っている様だ。



どうやらも、ルーピンから大量のチョコレートを取り上げる事に成功したらしい。

それは両手一杯なんて可愛らしい表現では収まり切らない程の。

溜息をつきつつそれをかばんの中に収めたところで、

ホグワーツ特急は停車した。












いつもどおり騒がしい組み分け。

それに乗じて、は、スネイプを引っ張り出していた。

勿論、は組み分けなどに興味は全く微塵もない。




「なんの用だ」

「ちょっと、シリウスのことについて。何か連絡あったかしらと思って」

「聞く相手を間違えていないか」

「いいえ?合ってるわよ?貴方以外の誰に聞くの?」

「ルーピンがいるだろう」

「彼がなんの見返りもなく教えてくれると思う?」

「思わん」

「その判断は至極正しいわ」




あの、初代悪戯仕掛け人の中で、

最も頭が切れて、最も腹が黒くて、最もオーラを使いこなしていた人物。

見返りを渡してまで聞きたい情報でもない。

知っているなら聞いておいたほうが得策だからだ。




「それともう1つ」

「なんだ。双子星の欠片はやらんぞ」

「セブルス、貴方、私を何だと思ってるの?」

「そう言いながら休暇中たかってきたのはドコのドイツだ」

「それは、貴方が騒ぐのを見て楽しんでるに決まってるじゃない」

「貴様・・・・」




と、話がずれかけただが、

真剣な表情になれば、スネイプもどうやら察したようで、

静寂のときが数秒。




「もしかしたら、あの人が後ろから何かしてるかもしれないわ」

「なんだと!?」

「何の証拠も無いけれど、腕が疼くからね」

!何故早く言わない!!今気付いたわけではないだろう!」

「あ、久々に名前で呼んでくれた」

「そういう問題ではない!」

「とにかく、セブルスも気をつけて。出来うる限り、防ぐけれど」

「おい!!」




人の波に自然に乗りつつ、スネイプから離れる

行き場をなくしたスネイプの手は宙を舞った。

2人の行きついた先は、例の廊下。

合言葉を言って、自分の部屋へと赴く。

螺旋階段に窓はない。

外を飛んでいる卑しいモノを見ずに済むのは、2人にとってこの上なく嬉しいコトだ。



あのモノ達は闇を思い起こさせる。

悩まされる過去の残り香。




「セブ、怒ってるかしら」

「だろうな」

「一刻も早くあの莫迦犬を見つけないとね」




荷物は前学期からそのまま。

新たに持ち込んだものはほぼゼロ。

の私物くらいだろう。

そんな他愛ない(?)話に花を咲かせつつ、一瞬無言の間があったその時だ。

蝶番も吹っ飛ぶ勢いで扉が開いたのは。




「どういうことだ!!」




扉が開いたと同時になだれ込んでくるスネイプ。

その後ろからルーピンとダンブルドアが続く。




「どうかしたの?眉間のしわが増えてるわよ?」

「どういうことだと聞いてるんだ!!」

「訳わかんねぇんだけど?」

「セブルスは君が例のあの人の伴侶だったと知らなかったみたいだよ」

「あら、言ってなかったかしら?」

「当たり前だ!!」




怒りを露にし、肩は振るえ、今にも飛び掛ってきそうである。

それに比べては、平然としていた。




「詳しく話してくれると助かるんじゃが?」

「ダンブルドアもご存じなかったんですか?」

「初耳じゃ」

「信じらんねぇ。あの何でも見透かしてる野郎が」

「わしは全能ではないぞ?」

「カルシウムが足りてないんじゃない?こんな事で切れて」

「こんな事で済まされることではない!!」

「とりあえず座れよ。話せるもんも話せねぇじゃん」




素晴らしい音を奏でながらソファに座ったスネイプ。

その後ろから2人が続き、魔法でそれぞれイスを出して、腰掛けた。

どこからともなく紅茶が出てくる。




「話すって言っても、そのままですよ?」

「だったというのはどういうわけじゃ?」

「あの人の伴侶だったのは、セブと学生生活を共にした""でしたから」

「ということは、例のあの人は、
お前が学生時代に愛した""だと分かっているのか!?」

「まさか。ただ似ていただけでしょう?」

「しかも、運の悪い事にコイツの両親がヴォルデモートの直属配下だったからな」

「あの夫婦か・・・・」

「セブも面識ないでしょう?」




それくらい、敷居が高かったのよ。

と、笑う。




「あやつはを取り戻そうとしているのじゃな?」

「さあ、そこまでは。そもそも、彼が何を欲しているのか判りませんから。
これで話は終わりです。他に聞きたい事はありませんね?」




無言は肯定ととる。

これは鉄則。

にっこりと笑って、何も無かったように。

今日は随分疲れたわなどと他愛ない言葉を発してみせる。

気付かれるな、ドアが閉まるその瞬間まで・・・・・・・・。

彼女の望みが聞こえたのか、彼等も笑って出て行った。

ばたんとっ閉じた扉にもたれて沈み込む。




!!」

「疼くわね。くそったれ」




まだ、終わるわけにはいかない。