次の日の朝、は何食わぬ顔で大広間に下りていった。

勿論もそれにあわせる。

悟られてはいけない。

誰にも。

その姿に顔をしかめたのはスネイプとルーピンだ。




「ルシウス・マルフォイの息子は莫迦か?」

「少し考える能力が劣っているだけよ」

「それを莫迦っつうんだろ?」

「そうね。まぬけとも言うわ」




グリフィンドールの机に向かう途中、ずっと響いていたうめき声。

我関せずといった感じで通り過ぎていくに、苛立ちを覚えたのだろう。

マルフォイはハリーの物まねをやめて、の腕を掴んだ。




「おい」

「なにか?私はまだ朝食まだなんだけれど」

の手を離せ。スリザリン野郎」

「ふん。君は倒れたりはしなかったんだろうね?あの弱虫のポッターみたいに」

「・・・・・・・・・・」

「あの空気に汚染でもされて?」

「空気は汚染するんじゃなくてされるのよ?」

「うっうるさい!!比喩だ!!」

「それはそうと、後ろで吸魂鬼が貴方を手招いているわよ?」

「そんなわけが・・」




こっちに向かってくる3人と双子。

にっこりと笑って後ろを指す

漂ってくる冷気。

後ろを振り向いたマルフォイは、叫び声を上げて走り去っていった。




「ばぁか」

、君、何したんだい」

「ちょっとした魔法ね」

「凄いや。アイツの顔見た!!」

「あら、私のことなんて嫌いなんじゃなかったの?ロナルド・ウィーズリー」

「それとこれとは別だ!!」

「はいはい」




ふわふわと浮いていた吸魂鬼。

簡単に作れるただの幻覚魔法。

悪用すれば素晴らしく悪の陣営に使えることはこの際スルーして。

朝食をとって、マクゴナガルから時間割を貰った

どうやら3人はこれから占い学に行くようなのだが・・・・




「え!占い学とってないの!?」

「ええ。占いって大嫌いなの」

「あ・・そっそう。でも、次の変身術は受けるよね?」

「あれは必須授業だったと記憶してるけれど?」

「そうだね!それじゃあ後で」




何やら至極疲れたようなハリーを見送って、談話室に戻ったは、

食糧と箒を持つと、自分の部屋を飛び出した。




「どこ行く気だよ」

「莫迦犬のトコロ」

「は?お前知らないって言ってなかったか?」

「昨日少しね」

「・・・・・・・・森に入っただろ」

「ご名答」

「アニメーガスになっただろ」

「私の守護神様は頭のよろしいことで」

「なんで言わねぇかな・・・」

「言う事聞かない子に言っても・・・・ね?」




複雑な表情のを尻目に、にっこりと笑っている

きっと、リドルの所に潜入したときの事を言っているのだろうが。

その笑顔がすこぶる黒い。

ここまで最強になるのなら、前の方が良かったかもと思ってしまった守護神であった。



箒で森の遥か上を飛びながら、

誰も踏み込んだことがないであろうそこへ向かう。

自分の記した道標に気付いてくれればいい。

目的地まで辿り着いたは、そのままキレイに着地した。

自分の勘と読みが正しければ、ここにいる筈なのだから。




「・・・・・・・・シリウス?」




試しに呼んでみる。

返事はない。

シンッと静まり返る少し開けた場所に、はぺたりと座り込んだ。




「もうちょっと、待ってみるか?」

「ええ・・・・でも・・・・」




彼は知らない。

自分が、ジェームズとリリーを殺して、彼の者に殺されたところまでしか。

疑っただけで留まった可能性のほうが高い。

例えそれが、旧友にしかわからない印だったとしても。

それから2時間待った。

既に変身術の授業は始まっている。

もうダメかと、が腰を上げた瞬間だった。




・・・・?」

「シリウス。良かったわ。見つけてくれなかったらどうしようかと」

「まっ待て!!匂いはだが・・・死んだ筈じゃ・・・」

「前世の記憶を持ったまま生まれ変わる体質なのよ」

「そんな事在り得るのか?」

「現に有り得てるわ」




草むらから出てきた男。

ゴミタメから出てきたのではないかと思わせるローブに、伸び放題の髪の毛とヒゲ。

普通は引く所であろうが、彼女にとっては予想の範疇だったらしい。

驚く事も多いが、今はその説明をしている場合ではないのだろう。

いかんせん、自分もあまり人前には出られない身。




「食糧よ。どうせまともな物食べてないんでしょう?」

「いや。まあ」

「うろたえ過ぎだろ」

「そうだったわ。それじゃあ、次の授業には出たいから行くわね」

「もう・・・・行くのか」

「ここにいてくれれば、また会えるわ」

「あいつがここにいるんだ」

「ピーターね。知ってる」

「じゃあなんで!!」

「どこにいるのか見当が付いていないからよ。
むやみやたらに鼠一匹探せるほど、私暇な生徒じゃないですから?」

「・・・・あ・・」

「出来るだけのことはするわ」




は、自分の運命を話す相手を選んだ。

そう。自分が今、闇の帝王の基にいることは全員に話した上で。

彼等の反応で、どれだけ服従の呪文をかけられても、

向こうにつくくらいなら、舌を噛み切って死ぬような人にしか話さなかった。



だから、彼等は知らない。

彼女が闇の帝王と関係を持っていることも、

この世の誰より彼と近しい存在だと言う事も。




「それじゃあ」

「無理・・・・するなよ」

「今の貴方には言われたくないわね」




にっこりと笑って、別れを告げる。

箒に乗って、ホグワーツへ向かいながら、安堵の溜息を漏らした。




「良かったな」

「一安心よ全く」

「ところで、ルシウスの息子、どうすんだよ」

「ほっといて大丈夫でしょ。馬鹿馬鹿しい」

「今朝の事がネックになってか?」

「あれは興味本位」

「嘘吐け。絶対楽しんでただろ」

「あら、ばれた?」

「喜ばしい性格になったな。オレの主は」




笑ってくれることに感謝する。

昔に戻れはしないけれど、思い出すことは出来る。

過去の自分を受け入れることも。

けれど、問題が解決したわけではない。

それでも、それを受け入れる側が変われば、結果は変わってくる筈。

今度こそ、全うできる人生を信じて。




「アイツ等を、どう処分するか」

「いっその事全員、消しちまうってのは?」

「そんな事したら筒抜けでしょうが莫迦」

「列車で守護霊出したくせによく言うぜ」

「あれは正当防衛よ」




にっこりと笑っては言い放つ。

輝かしい空に浮かんだ、黒いマント。

1つ1つに嫌悪のまなざしを向けて、は自分の部屋に降り立った。