後方で、嘘だろ!!と叫んでいるシリウスが眼に入る。




「あの声で見つかるとか考えねぇのか?」

「基本莫迦だからね」

「・・・・・・」

「まあ学生時代から良い意味でも悪い意味でも変わらないのよ」




自分は、悪い意味で変わらない。

全てを引きずって、

もう戻らないと判っているあの時を切望して。



彼女は気づかないのだ。

何故、そうも過去の記憶が蓄積され続けているのかを。

キヅイテキヅイテ。

叫びが聞こえる。

アナタノシアワセヲミツケテ。



誰かのためと命を落とし続けている君の。

君だけのシアワセ。




「そういやぁ、あいつはとばっちりばっか受けてたな」

「根っからの苛められっこ気質だからね」

「随分だな」

「あら、きっと自覚もあるわよ?」

「そうか?」

「そうでしょうよ。人の揚げ足を取るのが上手いのねって言ったら、
自負してるって言っていたし、Mッ気でもあるんじゃないかしら?」

「お、噂をすればなんとやら・・・・だな」

「先に帰っていてくれる?」

「了解」




丁度ルーピンに薬を渡した後なのだろうスネイプが、

いつもどおり黒いローブをなびかせながら歩いてくる。

は梟に成り代わり、

丸窓から外へと向かう。

はこちらへ近づいて来るスネイプを待った。




「いつもありがとう」

「仕事だ」

「リーマスの調子はどうかしら」

「どうもこうも変わらん」

「ま、そうでしょうね」




隣に並んで歩きながら、

静かに話せる場所まで来ると、立ち止まった2人。

1人は壁にもたれ、1人は座り込む。




「ホグズミードに行かなかったのか」

「用があったから」

「・・・・・ドコへ行っていた?」

「禁じられた森」

「禁じられた森は進入禁止だったはずだがな」

「気の所為よ」

「気の所為ではない!!」




まったく・・・と、

呆れてモノもいえないような溜息と表情。

判り易すぎる。




「・・・・あまり1人で出歩くな」

もいたわよ?」

「自分の立場を考えて行動しろと言う事だ」

「ヴォルデモートの伴侶だった頃のことを言ってるの?それは前世よ?」

「しかしだな!!」

「もう、心配性ね。善処するわ」

「はじめからそうしろ」

「これ以上、セブの眉間のしわ、増やしたくないしね?」

・・・・」

「あ・・・・」

「なん・・・・」




ふっと横に視線をそらしたスネイプは、ピシリと固まった。

例の獅子寮3人組が、タイミング悪く、

がふと穏やかな笑みを浮かべ、彼の眉間に指を添えた所を見られたらしい。

ファーストネームで呼び合っているのも聞かれただろうか。



こちらを指差して、金魚のように口の開閉を繰り返すロナルド・ウィーズリー。

教科書を下に散らばらせているハーマイオニー・グレンジャー。

なにやらえもいえぬ空気を背負ったハリー・ポッター。




「恋人疑惑でも流してみたら面白いかしら」

「莫迦なことを言うな。我輩に犯罪を起こせというのか」

「あら。倍ちょっとの年の差なんて今時どうって事ないわ」

「そういう問題ではない」

「ハリーは私の体質を知っているしね」

「話したのか」

「彼が知っておいた方がいいことは」



予想通り黒い笑みを浮かべながら近寄ってきたハリー。

どうやらスネイプもその笑みは身に覚えがあるらしく、少し後ずさった。

そんな時聞こえたの叫び。

天の助けとはまさにこのこと。




!!・・・・って、なんだ?この状況」

「丁度ラブラブな雰囲気を醸し出しているところを見られたのよ」

「・・・・・・」

って呼んでくれてかまわないのに。ね?セブルス?」

?」




ハリーの後ろに渦巻く何かが大きくなった事や、

ボクにはあんまり絡んでくれないのに、どうしてそんな奴とばっかり絡むの?

説明しないとココで押し倒すよ?的な裏の台詞なんかをスルーして、

ただならぬ雰囲気を醸し出していたはずのに向き直った。




「で、どうしたの?そんなに慌てて」

「そうだよ。太ったレディが」

「太ったレディが?」

「ピーブス曰く、侵入したシリウス・ブラックに切り刻まれたらしい」




その夜は大広間に集団雑魚寝。

根も葉もない妄想でおしゃべりを繰り広げる生徒達に切れたが、

スネイプの自室で眠ったりだとかは、まあ置いておくとして。

が次の日、

シリウスを生き埋めにしようとしたのは言うまでもないだろう。