対応がつめたい?
仕事に真面目だって、言って。
「唐沢さん、次のアポまで後15分です」
「全く。どこかの誰かさんのおかげで過労死するかもしれないですね」
「大規模侵攻からこっち、1ヵ月でスポンサー倍にしろって言ったのはどなたでしたっけ?」
「優秀な部下がいて助かってますよ?」
「どうだか。ちなみにいうと、クライアントが20分遅れるそうなので、休憩できますが?」
どうなさいますか?
と、いつの間にテイクアウトしていたのか、ホット珈琲を差し出して笑う。
この髪を結いあげ、パンツスーツに身を包み、
男の自分の横を、気後れすることなく歩く彼女こそ、
界境防衛機関きっての敏腕なんでも屋。
。其の人なのである。
体外的には自分の秘書と言う形にしているが、
経理から雑務からこなすもんだから。
「次のクライアントの資料をまとめて持ってきますので、
唐沢さんは此処で珈琲のんで待っていて下さいね」
絶対に動いちゃだめですからね。
そう言い放って、は、競歩選手もびっくりの速さで、ラウンジから姿を消した。
ちゃっかり、これまた何処で用意したのか、一口サイズのマフィンが置かれている。
朝っぱらから、スポンサー2人を相手にし、
海外メディアの取材を受け、
嵐山隊にながす仕事を選択報告終えて今だ。
甘いものが欲しくなる時間帯だが、
彼女のあのぴったりしたスーツの何処にそれらが隠されていてるのか、
自分は未だ謎を解明できないでいる。
「うわ。見た?今、ボーダーの魔女」
「すっげえ競歩」
「あれに逆らったら給料下がるらしいぜ?」
「マジで?!いや、絶対あのおばさん彼氏いなさそう」
「おばさんって歳かよ」
「確実に10は上だろ?」
通りすがりの隊員の言葉に、珈琲を飲みながら耳を傾ける。
中高生が大多数を占める戦闘員に、おばさんなんて・・・
まあ、10歳も違えばおばさんおじさんなんでしょうかね。
甚だ遺憾ですが、そこらの餓鬼に仕事を理解して欲しいとも思わない。
それは彼女も同じでしょうが。
「唐沢さん」
「おや、珍しいですね」
「それは唐沢さんの方でしょう」
マフィンを口に放り込んだと同時、自分を呼ぶ声に振り向けば、
そこにいたのは、新人教育に尽力してくれている、まだ、自分達に近い世代の狙撃手。
座りますかと出そうとした声は、帰って来たのだろう彼女の声で、掻き消された。
「東くん、申し訳無いんだけど、時間です」
「さん。お疲れ様です」
「お疲れ様。唐沢さん、行きますよ」
さっとゴミを何処かに消し去って、
今から相手にするスポンサー候補のデータ云々が詰まったバインダーを、唐沢に素早く手渡す。
来た時と同様、颯爽と去って行った2人を眺めて、東はひとつ、溜息をついた。
「東さーーーん!」
「佐鳥。転ぶぞ」
「大丈夫ですよ!珍しいですね!ラウンジにいるなんて」
「お疲れ様です」
「ああ。半崎もお疲れ。帰りか?」
「ミーティングも終わったんで」
「というか東さん!今、ボーダーの魔女と話してませんでした?」
「ああ、さんのことか?」
「そうっす!」
いや、だってあの人、全然笑わないし、
対応が冷たいし、戦闘員のなかじゃーーーーと、
淀みなく言葉を吐き出す佐鳥にそうだなーと適当に相槌をうちながら、
おそらくスポンサー候補であろう人と戻って来た2人を眼で追う。
「おい、それ話しに来たわけじゃないだろ」
「あ、そうだ!忘れてた!!」
「東さん」
「ん?」
「東さんは彼女さんいますか!」
「は?」
「だから東さんは止めとけって言ったろ?」
「今、狙撃手全員に聞いてるんですよ!」
彼女がいるかどうか!
と、あのメディア受けするキラキラした笑顔を向けてくる佐鳥。
唐沢の一歩後ろを歩き、スポンサー候補を観察しつつ、
パソコンを叩いては、必要な情報をどんどんと見せて行く彼女を、
もう一度、自分の視界に捉えて、東はふっと微笑んで、口を開いた。
「いるよ」
佐鳥と半崎の叫びがラウンジに木霊するまで、後数秒。