今から帰る。と簡素なLINEを恋人に送って、

ふらふらと帰り支度を始める。

時計の針はそろそろ明日をさそうとしていた。



「(あーーーー疲れた)」



あてがわれた自分の部屋を後にして、帰路に着く。

春秋はもう、寝ただろうか。

明日は朝から防衛任務だった筈だ。

事務系の部屋がかたまる棟を抜け、

エンジニア達の部屋を通り過ぎれば、まだ明かりがついていて、

徹夜と泊まりコースだな。

なんて、は働いていない頭で考えた。

ラウンジを横切れば出口は直ぐそこ。

かけられた声に、足を止めてしまったのだけれど。



「お疲れ」

「はる・・東君、どうかした・・」

「もう殆ど職員も残ってないだろう」



すっと荷物の重みが消え、

腰を抱かれたのが分かる。



、お疲れ様」

「・・・・・・反則よ」

「頑なに職場で名前呼ぼうとしないからな」

「公私混同したくないだけだもの」

「知ってる」



そのまま連れ立って歩きだす。

自分より2つ年下のこの男は、私の出来た恋人様で。

外に出れば、当たり前のように車が停まっているのだ。

スムーズな動作で助手席に乗り込む。





「ダメ」

「車に乗っただろ」

「どうしたの今日は」

「甘やかして欲しい」

「疲れ果ててるんだけど?」

「違うな」

「・・・・・そうね」



甘やかして欲しいのは私自身だ。

それを分かってニヒルな笑みを浮かべるから、太刀が悪い。

すっと頬に触れた、いつもはアイビスを握る手。

綺麗な手。

どちらからともなく唇を重ねた。

角度を変えながら、啄ばむ様なキスを繰り返す。



「晩飯も出来てるからな」

「パーフェクト」

「着いたら起こす」

「ありがとう」



そう、言葉を発すると同時、はゆっくりと眼を閉じた。

満足そうにそれを眺め、アクセルを踏みながら思う。

自分たちよりもずっと、過酷な仕事をしているのだろう。

ただ、それを助ける事は出来ないから、せめて、安らげる場所でいようと。



30分ほど車を走らせれば、家に着くわけだが、

勿論、安らかに寝息をこぼすを起こす気など毛頭ないわけで。

軽々とを横抱きにしたまま、東春秋は器用に家の扉をくぐった。



「んっ・・・・」

「悪い。起こしたか」

「・・・つい・・・たの?」

「嗚呼。もうベッドの上だよ」

「化粧・・・・おと・・・さな・・・きゃ」



ふらふらーっと寝室を出て行くの後に着いて洗面所に入る。

脱ぎ捨ててあるジャケットを拾って、ハンガーに掛けた後、

シャワーの音をBGMに、今度はスーツのパンツを拾いに行った。

皺にならないよう、綺麗に吊るして、スチームアイロンをかければ、

大体シャワーの音が停まるから、バスタオルで迎えてやるのだ。



「起きて・・・ないな」

「ねて・・ない・・・・わよ」

「眼が半分閉じてる」



バスタオルで包んでやって、あたる胸に理性を抑え込み、

髪の毛を乾かしてやる。

月末にしか見られない、貴重なの姿だから。

この時は、もう、めいっぱい甘やかすと決めているのだ。



「服、着せようか」

「きれるわよ」



まだ半分寝ている頭で、だが、先程よりはしっかりと、は答えた。

タオル類を洗濯機へ放り込み、作っていた夕飯は食べそうにないので冷蔵庫へ。

背中に圧迫感を覚えて振り向けばルームウェアに着替えたの頭が映る。



「どうした?」

「・・・・」

?」



腰に巻きついている腕を解いて、目線を合わせて問うてやる。



「いっしょに、ねよ」

「もちろん」



ひょいっとまた抱き上げて、ベッドに寝かせれば、自分の役目は終わりだ。

もう殆ど睡眠は取れないがそれでも、3時間は、安らかなる時を。



「「おやすみ」」