「穴があいた!?」
唐沢の事務所で、接待の用意を整えていたが、
似合わない大声を、携帯に向かってあげた。
「何事です?」
「訓練生がアイビスで基地の壁に大きな穴を、開けたみたいで」
「それはまた、有望株ですね」
「それにかかる費用計算をしていただきたいところですが?」
「あなたにかかればものの数分でしょう」
「買被り過ぎですと言いたいところですが、後に予定も詰まっている事ですし、10分で戻ります」
「頼みましたよ」
再度、電話を耳元に戻し、直径はとか、
他に被害はとか、色々と聞き出しながら、は足早に、唐沢の事務所を後にした。
「どうゆう状況か、もう一度説明してもらえる?」
「だから、訓練生が、穴あけちゃって」
「佐鳥君、違います。今の状況で何故、訓練生を引率して、
別の場所にでも連れて行かなかったのかという事を聞いているのよ」
「・・・・すみません」
「東君」
「すみません。俺が着いていながら」
「全くです。私とエンジニアは壁の修繕にかかるわ。
今すぐ彼らを別の集会室に連れて行って、レクリエーションを再開、
30分後に初日を終了させて帰宅させて」
「了解」
後でたっぷり理由は聞かせて貰うわよ。
と、視線が語っているのが分かる。
まあ、有望な新人を見つけたと嬉々として語れば、
恋人である彼女は、溜息をついて許してくれるのだろうが。
ただ、彼女の仕事を増やしてしまったのも事実だ。
「あ、あの!私が!壊しちゃった・・・から・・」
「貴方が雨取さん?」
「は、はい・・・・」
「壊れてしまったものは仕方ないし、
貴方達が安心して訓練出来る場所を提供するのも私達の仕事です」
「でも・・・・」
「私が怒っているのは、壊した事にではないの。
その後処理を任されている筈の引率者が、仕事放棄していたから怒っただけよ」
「さん、ちょっと見て頂きたいです」
「すぐ行くわ。荒船君ちょっと」
「っ・・・・・はい・・」
言われたとおりに訓練生たちに声をかけ、
背中を押された雨取千佳も、輪の中に入れてやる。
佐鳥はぶつぶつ言いながらも、
メディア向け部隊の自分が、そんな顔をしていれば、
体外的にも良くない事をしっかり分かっているのか、無理やりにでも笑顔を作り、
訓練生達の先頭に立っていた。
の姿を盗み見ようと振り返れば、
おそらく、再度状況報告を受けているだけなのだろうが、
肩と肩が触れ合いそうなくらいの距離な2人が眼に入って。
すぐに荒船が頭を下げて、こちらに向かって来たのだけれど。
自分の中に、どす黒いものが浮かんでくるのは止められない。
がそんな気持ちで近づいていないのも分かっちゃいるのだが・・・。
「ホント俺、あの魔女苦手です」
「舌打ちが聞こえるぞ?」
「内緒にしてて下さいよ」
訓練生のレクリエーションを終え、
ミーティングがあるという佐鳥を先に帰らせた。
「何か飲むか?」
「有り難く頂きます」
アイスコーヒーと、ポカリを買って、放り投げる。
「そういえば東さん、昨日映画館にいませんでした?」
「え?」
「いや、東さんらしい人を見かけたと思ったんですけど、
その、女の、人と、歩いてたから・・・・」
尻すぼみに声がなって行くあたり、おそらく、
当真辺りに聞いて来いよとでも言われたのだろうと、あたりをつける。
「お前は村上と穂刈と当真が一緒だったな?」
「知ってたんですか!?」
「狙撃手の視野の広さを舐めるなよ?」
「あの、人って」
「恋人だよ」
隠しているつもりは毛頭ない。
以前、佐鳥に聞かれた時も、恋人がいるという話はしたしな。
「やっぱり!大人のカップルって感じで!ウェーブって言うんですか?かかった髪とか!
前髪作ってないのも、ジーンズめっちゃ似合ってたし!」
「喜ぶと思うから、伝えておく」
お前がさっき、舌うちかましてたやつだぞ。
というのは、まあ、気付いていないのなら、黙っておいてやろう。