「今日はお忙しい中、お時間作って頂き、誠に有難う御座いました」

「まあ、期待含めての額だからね」



裏切らないでくれると。

なんて、意地悪そうな笑みを向ける、新しいスポンサーに再度笑顔を向けて、

入口までお見送りする。

あと、少しだ。



「詳しい資料に関しては、また後ほど送付させて頂きます」



唐沢の言葉に、さらに笑みを深くしたは、

横目に見えた、座敷の様子に、さっと顔を青くした。

気付かれてはいないようだ。

さも自然を装って、腕を伸ばし、障子を閉める。

車に乗るスポンサーに再度頭を下げて、安堵のため息をついた。



「お疲れ様でした」

「貴方もタクシーを使いますか?」

「いえ、まあ、使うんですが、ちょっと拾いモノをしてから」

「拾いモノ?」

「お会計は済んでます。上着と荷物は此処に。お疲れ様でした」



頭にはてなは飛べども、自分もかなり疲労困憊している。

3時間に及ぶ接待は身を結んだわけだが・・・。



「それではお先に失礼しますよ」

「明日は昼から出ます」

「かまいません。事務作業だけですしね」



閉まるタクシーの扉。

見えなくなるまで見送って、はさっと踵を返し、

閉めた障子の部屋へと赴いた。



「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・で?」

「・・・・・・これには深いわけ・・」

「寺島君?」

「スミマセンデシタ」



大中小の転がる影に、今日最大の溜息を、はついたのだ。

寺島の手を借りて、タクシーの後部座席に、

21歳にもなる3人の泥酔した男子を詰め込んだは、

寺島への説教を十二分にした後、自分もタクシーへと身体を滑り込ませた。

マンションの下まで来て、さて、どうしたもんかと腕を組む。



「あ、お客さん、1人、目を覚ましましたよ」

「あら、良かった。木崎君、ちょっとそこで伸びてる金髪運んでくれる?」

「え・・・あ・・・・」

「運転手さん、ホント、ご迷惑おかけしました」

「いえいえ。気を付けてね」



木崎は頭の働かぬまま、自分の隣に詰め込まれている諏訪を引っ張り出した。

立ちあがった瞬間に、目の前が揺れる、

ヤバいと思った自分の身体を支えたのは、先程まで運転手と話し込んでいた彼女だった。



「貴方に倒れられたら、私じゃどうにもできないわ」



こっち。

と、旧友である小型且つ高性能なA級部隊隊長を背負った彼女に着いて行く。

ダメだ。全く記憶が無い。

21歳組で、寺島を含め会えるのは、非常に久し振りで、

普段は開けない日本酒を、やたらと呑んだ様な気がしなくもない。



風間を背負ったまま、器用にかぎを開け、

家の中に入ると、スタスタと、おそらく和室だろうか、

のふすまを開け、風間を、落とした。

ぐふっと蛙がつぶれたような声がする。

てきぱきと3組の布団を敷き終わった彼女は、

未だに意識を取り戻さないその隊長様の身体を、布団の上へと寝かしつけた。



「あがりなさい。近所に見られたらスポンサーが減ってしまうから」



言外に、迷惑よ。と聞こえる。

支部の自分でも、色々と噂は聞いていて。

仕事に厳しく、ボーダーの魔女なんて言われている人だ。



「あの、俺は帰り・・」

「あがりなさい?終電もないし、まだお酒、抜けきってないでしょう」

「・・・・・・」

「どこかで倒れられた方が心配だわ」



ダメだ。

口で勝てる気がしない。

しぶしぶと靴を脱ぎ、

背負っている諏訪を、あいている布団に転がした。



「はい」

「?」

「レモン水」

「あ、有難う御座います」

「それ飲んで、シャワーは、浴びない方が良いわね。
明日の任務が全員ないのは確認済みだから、寝なさい?」



もう一度、もごもごとお礼を言って、布団にもぐる。

うすらぼんやりとした記憶の中で、彼女が、

水の入ったペットボトルと洗面器を、其々の頭の上に置いていた。