夜勤を終えて、自宅へ向かう。
朝の6時。
まだ、ベッドにいるだろうか。
一緒に少しでも眠れるだろうか。
期待を胸に玄関を開ければ、何故か、男物の靴が3組。
そして、ルームウェアの恋人。
「おかえりなさい」
ふってくるキスには応えて、何から口に出そうと、
東は、疲れ切った頭で、思考しようと試みた。
「ちょっとね、居酒屋で大きな拾いモノしたの」
「・・・・分かった」
困ったような表情の彼女に併せて、苦笑した。
その顔だけで、何があったのかは想像に難くない。
お酒の呑める隊員は、勿論少なくない。
だが、エンジニアや事務員は、
大抵基地に泊まり込み組か、もしくはアフター5を楽しんで、次の日出勤する奴か。
となると、この靴の持ち主は戦闘員だろう。
戦闘員でお酒を飲める奴、となると、一気に人数は絞り込まれる。
東は溜息をひとつついて、ただいまのキスを贈った。
「っ・・・・・」
「眼が醒めたか?」
「あ・・・れ、俺、ここ、え?」
「風間を起こせ」
「あたまいってえ!」
「あれだけ呑めばな」
「ぜんっぜん思い出せねえんだけど」
「まあ、俺も半々だ」
朝起きてみれば、知らない和室。
いや、自分にはうすらぼんやりとしたではあるが、記憶がある。
未だ、布団にくるまって、眠っている風間を、諏訪が叩き起こした。
「・・・・う?」
「う?じゃあねえよ。風間まだ寝てんなこりゃ」
「とりあえず、起こせ。そして、心の準備だけしとけ」
「は?なんのだよ。ってかここどこ・・」
「ああ、やっと起きたのね」
数秒、人が固まるところを、俺は初めて目の当たりにした。
心の準備をする時間は、なかったらしい。
「意識はしっかりしてるわね。モノは食べられそう?」
「え?は?いやいや、え??」
「俺達が呑んでた店に、さんも、いたらしい」
「泥酔したあなた達を、それぞれの家に送り届けるにはいささか遅かったから、あたしの家に運んだのよ」
え、あの魔女が?有り得ねえだろ。
みたいなことを、小声でぶつぶつと諏訪が呟いている。
風間は・・・・・どうやら、起きたようだ。
自分の後ろで口を半開きにして、今の状況に着いて行けていないのは分かった。
「昼から出勤なの。せめてスープだけでも呑んでしまってもらえる?」
片付けが出来ないから。
と、和室の扉を開けて、リビングを指さした。
美味しそうな匂いがふわっと鼻孔をくすぐる。
「生姜をきかせた中華スープ。あっさりしてるから胃に入るでしょう?」
時計を見れば既に12時で、最後の方はアルコールしか摂取していなかったのだろうか。
3人の胃がとても素直に、空腹を訴えていた。
中華スープに浮かぶ水餃子がまた、視覚的にも攻撃を仕掛けて来ていて・・・。
「ほら、突っ立ってないで、座って食べる。私が遅れちゃうわ」
「いや・・・・でも・・・・・」
「何が何だか分かっていない状況何すけど・・」
「俺の恋人を、あんまり困らせないでやってもらえるか?」
後ろからすっと出て来た影に、本日二度目の思考が停止した。
ボーダーの魔女を抱きしめ、
距離を零にしている人を、自分達はよく知っていて。
「こら。3人が帰ってからにしてって言ったでしょう」
「大丈夫だよ。こいつらなら。俺のお昼は?」
「同じメニュー」
「よし、じゃあ食うか」
それから数分、3人の抜けきった思考が帰ってきたのは、
仕事に遅れると、いつも見ているパンツスーツ姿で、
の姿を見送った後だった。