夜に眠ったのはいつ振りだろうか・・・・。




「おはよう★」




ノーメイクのどアップが目の前にある。

まだ起ききらない脳みそでしばし考えた後、

昨日壊れてしまった事を思い出した。

すっと差し出された冷えたタオル。




「ありがとう」

「貸し◆」

「判ってるよ・・・・・其れよりヒソカ、どうしていつもそれでいないの?」

「メイクの事かい?」

「うん。そっちの方が良い」

「好み?」

「良いって言っただけだよ?」




くつくつ笑いながら、鏡に向かうヒソカに、

もう一度ありがとうと言って、時計を見やった。

朝の7時半。

到着は9時半ごろだったはずだから、

まだ時間は十分にある。




「外に出たい・・・・」




少しばかり吹き込んでくる風。

昨日よりは収まったにしろ、消えてはない耳鳴り。

トリックタワーなんか、それこそ発狂しかねない。

いそいそとバスルームから出てきたヒソカを見やり、

は盛大に溜息をついた。




「酷いな★」

「・・・・・抱っこ」

「?」

「まだ止まってないの」

「貸し2つ?」

「じゃあ、ギタラクルに頼む」



すくっと立ち上がったばかりの身体を引かれて後ろにのけぞる。

ぽすんっと収まった先は、

ベッドに腰掛けるヒソカの膝の上。




「仕方ないから1つにしてあげるよ◆」

「うん」




きーんっ。

という耳鳴りと、とくりとくりという心音が重なる。

それから2時間、その状態のまま、何も話さず過ごした2人は、

到着のアナウンスで扉口へと向かった。




「自分で歩ける」

「う〜ん・・・・・もう少しvv」

「ヒソカが言うとなんかエロくさい」

「★」

!!・・・・・・・・ごめん」

「何が?」

「お取り込み中失礼した」

「違うよ?クラピカ」




飛行船を降りたところで、幾人もの視線を感じたが、

まあ、それは無視。

2人が走ってくる後ろから着いてくる保護者が、

深々と頭を下げるから、少しばかり噴きそうになったけれど。




「お前、相当な神経の持ち主だな」

「褒めてる?」

「一応」

「あ、ヒソカ、ストップ」

「なんだい?」

「あたし抱えたまま、落ちないでよ?」

「気付いてたんだ◆」

「うん。まあ」



ゴンとキルアと話しながら、

は未だヒソカに抱かれたままでいた。

空洞になっている雰囲気がわかるのは、有り難い事だ。




「問題ないだろう?」

「発狂するのは避けたいから」

「何の事?」

「ゴンは何も心配しなくて良いよ」

「じゃあ、どうするんだい?」

「飛び降りる」

「「はあ?」」

「それこそ自殺行為だろ!!」

「平気」

、凄いね・・・・」

「凄いを通り過ぎてる事に気付け、ゴン」




しばし考えるポーズを見せたヒソカは、

仕方ないといった感じにを下ろし、

自分の見つけた隠し扉へと落ちていった。




「さっきの発狂するって何?」

「ちょっとね」

「教えてくれないの?」

「会ったばかりの君たちには」

「疑ってるって事かよ」

「言葉の上で理解できる事じゃないから」




悲しそうに笑うから、それ以上追求できなくなってしまった。




「もし、その状態を目にしたなら、経緯くらいは話すよ」

「そっか・・・・うん」

「じゃあ、2人とも頑張って」

もね!!」




仲間のところにかけて行く2人を見送って、

大分と少なくなってきた受験生を見渡した。

後半分くらいになれば、落ちようと決める。

それまでしばし、外の風を満喫するのもいいだろう。

どうせ、最速のヒソカでさえ、6時間ちょっと掛かるのだから。



タワーの端に腰掛けて、どうやらしばし眠っていたらしい。

危なっかしい事この上ない。

うっすらと開けた瞳で周りを見れば、人っ子一人いなくなっていた。

時計を見れば、4時間が経過している。




「そろそろ行こ」




そのまま身体を前に傾けて風を切る。

久しぶりの感覚だ。

2階から落ちたくらいじゃ少しだけで終わってしまうその感覚も、

これだけの高さとなれば、耳元で唸る風を感じることが出来る。

それは不快なものではなくて、逆に心地良いとさえ思えるほどの。



まあ、うかうかしてると気色悪い鳥達が襲ってきかねないので、

少しばかり風を感じたは、

機械仕掛けの神様(マリオネットクロノス)を発動し、自らが飲まれて数秒後、地面に脚をつけていた。



微かに、3次試験通過第1号・・・・という放送が聞こえてくる。

自分の名前を呼ばれたことを確認したは、

扉らしきものの前に座り込み、蒼と翠のコントラストを眺め、

中から聞こえてくる放送に耳を傾けながら、

残りの時間を過ごしていた。




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