とりあえず連れ立って開けた場所にやってきた2人は、
途中汲んだ水分を補給し、木の幹にもたれ同時に溜息をついた。
「あんな負け方したの、いつ以来だ?」
「力なら絶対にキルアが上だと思うよ」
「勝てなきゃ意味無いだろ」
「だってキルア逃げるから。どう動くのかがまる判り」
「っ!!」
それはあたしが、貴方を知っているから。
それを知らなかったら、きっとあたしは君に触れる事すら出来てない。
「ありがとう」
「だから何が?」
「こっちの話」
「またそれかよ」
「お礼に良い事教えてあげる」
「?」
「197番を6日目前後に、ハゲへ渡せば、合格できるよ」
「意味わかんねえ」
「ま、やってみて。そのプレートだけおいて、後の3枚を奪うのも手だね。
ハゲにとってその197番は3点。キルアが持ってても1点分だから。
つまりは取引。それが無理ならどっちかが落ちるけど、多分平気だよ」
「なんだそりゃ」
しばらく休憩(といっても、キルアはまったく疲れてない)した2人は、
星が出始めた空を見て、それじゃあそろそろと言い合い、
まったく違う方へ歩を進めた。
は直ぐに、飛んできた釘を避けねばならなくなったのだけれど。
「危ないな」
「反応良いね」
「気にせず寝てたら良かったのに」
「気付いてたんだ?」
「これでも一応念能力者だから」
「円・・・か」
「持続するのはまだ無理」
穴から這い出してきたイルミに溜息をつく。
その様子からすれば、自分が彼の本当の顔を知っているとしても、
おかしくないと思ったのだろうか。
「彼と戦ったんだ」
「お気に召さない?」
「どっちかが勝ったの?」
「あたし」
「ふ〜ん」
「そう言いながら、釘、構えないで欲しい」
「ちぇっ」
「ちぇっ。じゃないよ」
はあっと今日最大の溜息をついたは、
地面に刺さっている、先ほど自分を狙った釘を拾って、
イルミに近づくと、はいっとその釘を手渡した。
どうやらイルミは驚いているようで、目をさらに見開いている。
「どうしたの?」
「・・・・・」
「イルミ?」
「いや」
「そ?あのさ、ヒソカ何処にいるか知ってる?」
「円で捜しなよ」
「気ままに歩けばぶつかりそうな気もするけど」
「今は行かない方がいいんじゃない?」
「今はね」
君の瞳の先にあるのは、いつも信頼できる誰か。
垂れ流しになって、ここまで漂ってくる死の香り。
今はダメだ。
念を覚えた自分でさえ、きっと近づけないと思う。
「一緒に寝る?」
「ごめん。あたし夜は眠れない」
「じゃあ、オレも起きてる」
「寝ててもいいよ?どうせこれが収まったら、ヒソカ探しに行くし」
「・・・・・行かせないって言ったら?」
「うん?」
「いや、気にしないでいい」
誰かに執着するココロは要らない。
は木に、イルミは地面に腰掛けて、隣り合う。
見上げる月は、誰をも狂わせる満月。
「イルミも髪の毛さらさらだね。いじってもいい?」
「は?」
「髪いじられるのキライ?」
「別に」
へらあっと笑ったは、そのままイルミの髪を手にとって、
ゆっくりゆっくり梳いていく。
どこか憂いを含んだその行為に、イルミはゆっくり目を閉じた。
にとって髪をいじる行為は、
じゃれ付くのに似ていて、決して特別な意味があるわけではない。
けれど、その優しい手つきが、自分に触れていてくれるのだと、
誰かや何かに触れなれていない者には、
安堵の空気を導いてくれるのだ。
「イルミ?イルミ?寝ちゃったの?」
少し上を向いたまま反応を示さなくなった彼に、
はもう一度溜息をついて空を見あげた。
月が自分を見下している。
手の中に納まるさらさらの闇は、今も規則正しく。
上下する肩や、寝息を聞きながら、
ふと、こんなに簡単に眠ってしまっていいものか。
と、疑問に思ったけれど、安心しきってくれているのかもしれないと、
少しばかりプラス思考に考えてみれば、嬉しさが込み上げてくる。
誰かの何かでいられる、数少ない時間。
眠気の襲ってこぬ瞳を叱咤すれど、しょうのないことだから。
とりあえず、次の陽が昇って、眠くなったら寝ようと決めた。
目の前で夢を見る彼を見つめ、微笑を向けたその瞳を、
そのまま翳る事ない月に向けて。
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