天空闘技場の部屋に帰った後も、
はサテンのドレスがどうなっているかなど気にする由もなく、
ただただ涙を流し続けていた。
今が何時で、朝なのか夜なのか、全てが融けてしまうような感覚。
「そろそろ泣き止んだらどうだい?」
それが出来たら苦労しない。
とめどなく溢れる涙の向こうに滲む、
今は何の虚構も塗りたくっていない奇術師を睨んだ。
自分の存在を見つけてくれた彼に、
独りを強要させられたことが悲しかったのか、
独りの感覚を思い出して、暗闇に沈んでしまったのか、
死を受け入れた時のように、唯々溢れるだけなのか。
自分でも判らないその雫を、はどうしても止められない。
けれど、先ほどに比べれば大分とましになってきた。
言葉を発する事は出来るし、
自ら動いて水を飲むことだって出来る。
けれど、瞳が乾かない。
「ほっとけば良いのに」
「そんなわけに行かないだろう?」
「どうして?」
「なんとなくさ★」
あたしの見知っている君は、
何にも属さぬ、誰にも縛られぬ、
本当に自由気ままで嘘つきな、子供。
「ヒソカはどうしてあたしに構ってくれるの?」
「なんとなくだって言っただろ?」
「あたし強くない。才能もない。なのに・・・」
「さあね◆」
それから暫く時が過ぎれば、
規則正しく聞こえてくる寝息。
ふっと溜息を漏らして、
中途半端に横たわった彼女を、
しっかりとベッドの真ん中へと運んでゆく。
「どうして・・・・か。ボクが聞きたい」
最強だと理解する事は決して、安易な事ではなかった気がする。
何にも囚われず生きてきた今までは、
もしかしたら、無用の長物だったのかもしれないと、
に会った今なら、そう思える。
答えではないのに、欲しい言葉。
「手に入らない者ほど、傍に置いておきたくなるんだよ★」
きっと、団長とてそうなのだろう。
ヒソカは其れを確信していた。
団長だけではない。
蜘蛛に属する皆々が、彼女を傍に置きたい理由。
だって君は、いつまでたっても皆の者。
特定の誰かを愛するでもなく、
大切にするでもなく、
ただ其処に在って、誰もを瞳に収めていく。
1日1枚。
決まった枚数の写真達。
そんな中で秀でたいと思うのは、子どもの性。
自分を見て。
「ん・・・・」
眩しすぎる朝日に眼をしばたかせ、
目の前の厚い胸板に、豪快な蹴りをかました後、
眠気覚ましの珈琲を一杯。
床には、チェストに頭をぶつけて、そこをさすっている、
肉体を見事なまでに曝け出した、パンツ一丁の男。
「酷いな★」
「どっちが」
「に決まってるじゃないかvv」
「もういい。あたし、ゴンたちのところに泊まるから、次会うのは、アジトだね」
「帰ってこないのかい?」
「今、決めた」
あまりの抱き心地のよさに、昨日そのまま寝てしまったヒソカは、
一事が万事という言葉を思い出していた。
つっけんどんと、そう言いながらも、
自分の分まで珈琲をついでくれる彼女に、
嫌われてはいないのだろうと、少しばかりいい気分になって。
シャワーを浴び終わり、ショートパンツにカッターシャツ。
ブーツを履いているを見ながら、
用意してくれた珈琲を飲み干した。
「それじゃあ、行くね」
「もう行くのかい?つれないな◆」
後ろから抱きすくめれば、
機嫌が悪そうに寄せた眉で睨まれる。
くつくつと笑えばさらに深くなってゆく皺。
ふっと溜息をついて抜けた肩の力に怪訝になって覗き込めば、
がこちらを見上げていた。
「ヒソカには沢山助けてもらったね」
「?」
「ありがとう」
其の顔に浮かんだ満面の笑みに、こちらもにたりと笑って見せた。
自然にすり抜けられて、ヌクモリのなくなった腕。
ただ、が笑顔で手を振るから、
こちらも手を振り替えしておいた。
少しだけ部屋が広くなった日。
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