こんこんと扉をノックして、返事を待つ。
しばらくすれば、だらしのない眼鏡の男が立っていた。
「!!」
「知り合いですか?」
「うん!どうしたの?」
「やる事もないから、修行、見せてもらおうと思って」
快く招き入れてくれるゴンに促され、
部屋へと身体を滑り込ませる。
ウイングから発せられる、不信を醸し出すオーラに気付かない振りをして。
「水見式するところなんだ」
「おう!は何系なんだよ」
「見せてくれるなら教える」
「いい・・」
「ちょっと待って下さい」
瞳を見れば、大事な大事な弟子達の念が、
得体も知れぬ自分に見られて、
命の危機を増やすのを黙って見ているわけには行かないと、
そう言っているのが判る。
「水見式、終わったら教えて?一緒に修行しよう」
「え?中で見てればいいのに」
「その人はあたしを信用してない。ね?」
「なんだよ!俺等の友達だって言ってんじゃん!」
「郷に入れば郷に従え。彼は2人のお師匠なんだから、従わなきゃ。
今出て行けば、一緒に修行見てもいいってことでしょう?」
「いえ、居て下さって結構ですよ。弟子に嫌われる事はしたくありませんしね」
にっこりと笑った其の顔から、
疑いが消えていないのは明白だけれど、
折角の自由時間を貰ったわけだから。
「ありがとうございます」
「それでは、順にやって行きましょうか」
3人の系統は、勿論知るとおり。
壁にもたれて其れを見ていたは、
期待の目線を向けられている事に、
数分前から気付いていたものの、
クロノスに視線をやる事で、何とか凌いでいた。
が、もうそろそろ限界である。
「やればいいんだね?」
「早く気付けよ!」
「気付いてはいたけど、無視してた」
「なんで??」
「系統を知られるのはあんまり良くないとされてるから。
対策を立てられちゃうし。だから、この人もあたしに見せたくなかったんだよ」
「へえ」
「あ、あたしって言います」
一泊おいてつつまれた爆笑の中で、
きょとんとしている。
そういえば自分達も名乗っていないなんて無粋な。と、
ウイング、ズシと自らを定義した。
久しぶりにグラスに向かって発をする。
「なんだこれ」
「クロノスのミニマム」
「具現化系ですか」
「特質系でもあります」
そういった瞬間、半分だけ解けてしまったグラス。
自分の能力を思い出して、
その反応に、なるほど、と自分で納得してしまった。
「ごめん。床」
「いえいえ。気にしないで下さい」
「特質系かよ」
「不満?」
「・・・・・・」
「凄いね!!」
「ありがとう」
君たちにとったら、邪魔な力かもしれないけれど。
「さ、修行しようぜ、修行」
「「おす!」」
「絶対負かしてやるからな」
「ん」
基礎からの練習は、にとって有り難い事この上ない。
旅団は才能の塊だから。
ゆっくりゆっくり流の練習もかねてイロイロと。
そうこうしている内に、楽しい時はやはり、早く過ぎてしまうもので。
空は真っ赤に染まり、おれんじ色の太陽が、
こちらとあちらの境で融けていた。
ウイングの部屋にさよならを告げて、自分達の部屋へと戻る2人に、
ぽってりぽってり着いてゆく。
ぼーっと着いていっているだけだったから、
自分の名前を呼ばれて、少しばかり身体が強張る。
「ってさヒソカと同室なんだよね」
「うん」
「まじ?お前やっぱり変だ」
「そうかな?」
「自覚なしかよ」
「どうして皆、ヒソカを奇妙だと思うの?」
服装だとか、メイクだとかは勿論、見ない方向での話し。
恐ろしいとか、
変人で狂人で、殺人快楽者だとか。
2次元で見ていた時も今も、決してそうは思えない。
つまってしまった2人を見据える眼は、答えなど求めてはいない事を、
まだまだ生きていない彼らは、気づく由もなかったのだ。
「ヒソカは只、子供のように、玩具を探しているだけなんだと思う。
満足できる、何かを探しているうちに、捜す事が楽しいんだと気付いたんだと思う。
結果ではなくて、其の過程を楽しめるヒトってなかなかいなくて、
それはとても、難しい事。羨ましいし、尊敬できる事だよ」
しんっとする廊下に只、
3人分の足音が響く。
自分たちにはわからない言の葉が反響して、
頭の中が一杯一杯だ。
だから、自分たちの部屋、基、
キルアの部屋への扉を開いたとき、
眼前に移った黒髪ロングに、反応を返せなかったのは、
至極当たり前の事だと言えよう。
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