ずさっという音と共に、2人は廊下の端までさがって臨戦態勢に入る。

そんな2人が眼に入っていないとでも言うように、

はぽかんと突っ立っていた。




「なっなんでココにいるんだよ!!」

「キルに用はない。

「?」

「久しぶり」

「うん。どうしたの?」




動かぬままに聞けば、

ゆっくりと近づいてくる長身を見上げる事になる。

さらりと揺れた黒髪が、頬に掛かるくらいまでに近づいたイルミは、

何を思うたか、そのままの身体に項垂れた。

後ろで、2人の空気が一気に固まったのは明白。




「イルミ?」

「オレ、外出てた。仕事以外で」

「うん」

「食事って3回取るものだったんだ?」

「うん」

「言いつけ守ったんだけど」

「偉い偉い」




いい子いい子と髪を撫でてやっても、

細められる事のない眼。

けれど、撫でて、褒めて、もっと。




と兄貴ってどうゆう関係?」

「婚約・・」

「違うでしょ」

「違わない。オレが決めた」

「イルミ」

「ゴメン」




こんなに従順な兄を見るのは初めてなキルア。

臨戦態勢は既に解かれていて、

2人は只ポカンと、母が子供をあやす様な、

けれど何処か下手糞に合成された写真の様に、不自然な2人を見ていた。




「で、結局どうしたの?」

「家来ない?」

「今から?」

「そう」

「ん〜・・・・2人の修行見たいからいいや」

「そんなもの、いつでも見れる」

「いつでもじゃないよ」

「?」

「今は今しかないの知ってるから、今は2人と一緒にいたいの」




お子ちゃま2人が赤面している事など露知らず、

はにっこりと微笑む。

しばし考え込むようにしていたイルミが、

さも思いつきましたというように、顔を上げたのは直ぐ。




「オレも一緒にいよう」

「なっ!」

「えっ!?」

「いいんじゃない?」

「「良くない!!」」




むなしく響いた2人の主張は、聞き入れられぬまま、

イルミはすたすたと登録を済ませに行ってしまった。

しばらく扉の開いたキルアの部屋の前で突っ立っていた3人は、

誰からともなく目を合わせ、

部屋の中へと吸い込まれていく。




「てか、なんでがココにいんだよ」

「ヒソカのところにいると、貞操が危なそうだから」

「いいじゃんキルア!念の事についても聞けるんだし!」

「まあな」




其々飲み物を手にとって、

空に瞬く星を見ながら、ベッドに腰掛け雑談。

響くのは、こくりと喉を何かが通る音だけ。




「あのさ

「?」

「イルミとか、ヒソカとか、どういう関係なのか聞いてもいい?」

「一緒にいてくれる人」

「は?なんだよそれ」

「そのまんま」



「オレ達は?」

「一緒にいられる人」

「何が違うの?」

「あたしのココロ」




何処から来たのか。

何を想うか。

自分達は聞けなかった答えの向こう側の彼女を、知っているか否か。

それが、られる人とくれる人の違い。

明らかに納得なんて出来ない答えだが、

それ以上は言ってくれないという確信が、

少なくともゴンにはあった。




「ゴンもキルアもすきだよ?」

「なっなんだよ急に!!」

「照れてる?」

「照れてねえ!!!」

「純粋だね」

「何処がだよ」




血にまみれた自分の何処が。




「ゴンの事にも、あたしの事にも、悩んでくれてるから」




頬が上気する。

ただ、すがりたくなるような其の微笑の元で、

どれだけの時が止まって、渦巻いていたのかは知る由もないけれど、

少しだけ、少しだけ、彼女のヌクモリを求める兄の気持ちが、判った気がした。




「ね?」

「うん!!キルアはオレの親友だし!」

「うっせえ!!」




キルアをからかいながら、其の夜3人は川の字になって寝た。

映らない鏡を知らないまま。



もちろんの瞳は開ていて、

こつこつと響く足音に、

そおっとベッドを抜け出すと、音も立てずに扉を開いた。




「下手したらお化けに見られかねない」

「寝れないんでしょ」

「ありがとう」

「ついさっき見つけたテラス。行く?」

「うん」




掌から伝わるヌクモリを感じながら、

夜風吹く外へと歩を進める。

てらてらと輝いている月が、団子に見えて苦笑。




「何笑ってんの?」

「団子が3つ」

「?」




1つ、2つ、3つ。

月と自分の瞳を指して、くすくすと笑う

会いたくて、つい来てしまった。

そんな自分を、抱きしめてくれた彼女の腕を引き寄せて、

少し生暖かくなってきた中で、汗ばむくっついた場所を、意識する。

暑いと言う苦情が聞こえてきたけれども、

聞こえない振りをしてやった。




TOP   NEXT