貴方達が求めた者に、

ただなろうと必死で、押し隠してきた狂気。

何処でだってあたしは、

笑顔を振りまく、貴方達の出来た娘として、傍に佇んで。

なのに・・・・・・・・。




「嗚呼。ヤダ」




また他人の所為にしだした。

ダメなのは、ココロの脆い自分で、

彼らではないでしょう。

自分が悪いじぶんがわるいジブンガワルイ。




がしゃん。




割れたコップ。

机から滴るどろっとしたチョコレート色の液体は、

つうっとテーブルクロスを伝ってぽたりぽたりと雫を残す。




「お客様!お怪我は!!」

「ははっ」

「っ!!」

「平気です」




だって私は、良い子だから。

誰の役にも立たないなんてそんな、

存在してもしなくてもいいような人じゃないもの。




◆」

「なんでしょう?」

「随分魅力的な格好だね?」

「随分と非常識な格好だと思います」

「着替え、手伝ってあげようか?」

「いいえ。人様の手を煩わせるなんてそんな。
このくらい自分でできますから」




目の前の他人。

他人。

他人。

笑顔で交わして。

そう。

経った一瞬の絆にさえ、自分を抑える苦痛を。



ヒソカはぴくりと眉を寄せると、

くるりと振り向いたの首に、手刀をかました。

そして、意識を失ったを、運んでいけばよかったのだ。

が意識を失ったなら。




「まだ何か?」

「!!」

「ヒソカさん?」

「・・・・・・・」




手加減したわけではない。

死なない程度に加減はしたが。

自分の事を忘れているわけでもなく、ただ、急に、映らなくなった。

何も言わない自分に背を向けて、

自分たちの部屋へ入ったは、

そのままバスルームへと姿を消し、

響くのは虚しく、水がバスにはねる音だけ。




「ん〜★なかなかな問題だね◆」




もう少し早く出ていればとか、そんな後悔はなかったけれど。

楽しむ脳を持ち合わせてはいなかった。

ただ早く、元の彼女に戻さなければ、また、壊れてしまう。

ヨークシンに着くのは今日の正午。

多分、きっと、自分では無理だ。

しばらくすれば、真新しい服に着替えたが、

バスルームから出てきた。




「飛ぼうかvv」

「はい?」




強引にを横抱きにして、

はめ込まれた窓を割ると、吸い込まれるように外に飛び出した。

一刻を争う事態だ。

自分にとっては。




「何をなさってるんですか?」

は黙って捕まってればいいよ★」

「判りました」




なんて従順な、面白くない生き物だろう。

自分の首に手を回すこともなく、自分の力で身体をいたわり、

少しも関係を持とうとしない、物。

念をイロイロと駆使して、

人ごみの中を物凄いスピードで翔けてゆく。




「下ろしてよ。自分で走る」

「ダぁメ◆」

「クロノス」

「そう何度も同じ手を食らうわけないだろ?」

「そうかな」





なんて、自分の脳内で展開されるのは、鏡に映る幻。

それさえ映らぬ鏡じゃ・・・・。

重くもない扉を開いて中に入れば、

まだメンバーはほとんど集まってはおらず、

シャルナークがパソコンに向かっている他は、

クロロとフェイタンのオーラを感じる程度だった。




「それ、団長が見たら、発狂するんじゃない?」

、降りていいよ★」

「はい。重くなかったですか?」

「全然vv」




恋人よろしき2人に、

パソコンから顔を上げずに忠告すれば、

帰ってくるのは不自然に響くノイズ。




?」

「あ、お気になさらず。シャルナークさんはご自分のお仕事をなさって下さい」

「っ・・・!」

「団長は何処だい?」

「自室・・・だと思うけど」




洗練された45度の会釈に、シャルナークはびくりと肩を震わせた。

怖いと、初めて思った気がする。

ヒソカが手招きすれば、何の抵抗もなく着いてゆく彼女。

映らなくなっている事に気づいたのは、

2人の姿が見えなくなってからだ。









こんこんと言うノック音。

オーラで誰が近づいてくるか判っていたクロロは、

嬉しさとうざさの両方を同時に感じていた。

もいる。あいつもいる。

泣かせてしまったあの日から会っていない事を考えると、

少しばかり躊躇するところではあるが、

会いたい気持ちの方が上回っていたらしい。

読んでいた本を放り出して、ドアノブを回した。

鼻歌を歌いながら。




「やあ★」

「さっさとだけおいて下へ行け」

「いいのかい?そんな事言って◆」

「どういう意味だ」

「ただいまかえりました。クロロさん」




映った歓喜を覚えてしまった。

映らなくなった絶望を、感じてしまった。




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